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18年前、イームズ家の客間(フィガロの私室)にて。かみ合っていないやりとりをする2人。

18年前、イームズ家の客間(フィガロの私室)にて。かみ合っていないやりとりをする2人。

「ミーシャは、冷ややかで美しい冬の女神さま、この国の冬そのものに、深く愛されとるような子だな。――ワガハイは死神にすら嫌われておるのに」
 
 死神に嫌われているというのは、フィガロ先生がよく口にする言葉だった。
 でも、今のこの言い方だと、死神のほかにも先生を嫌う存在がいっぱいいて、誰からも愛されていない、というふうに聞こえる。
 
 すらりと美しい佇まい、やわらかく薫り立つ知性、放つ魔法は凄烈で壮麗。
 おどけたところもあるけれど、先生は根っこのところでとても真面目かつ真摯な人だ。
 そんな先生を嫌う人がいるなんて、誰からも愛されていないなんて、ぼくには考えられないことだった。
 
「ぼくは先生が大好きですよ」
 
 目を見開く先生。
 そして、嬉しい時用の笑顔を浮かべようとして、失敗したんだと思う。
 眩しいような、苦しような顔になった。

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「そうか! それは嬉しいな!」
 
 声に嬉しさを乗せることは成功しているけど、どうしてそんな顔をするの。
 ちぐはぐだ。表情と声が合っていない。
 本当は嬉しくないんだろうか。お世辞だと思われているんだろうか。
 言い知れぬ焦りがぼくの中に生まれた。
 
「大好きな証拠を見せてあげます。ハグしてあげます」
 
 隣に座っていた先生の頭を包み込むように抱きしめる。
 
「おっとっと! わはは! ミーシャはぬくいのう!」
 
 先生がぼくの頭を優しく撫でた。
 
「優しいな。ワガハイもミーシャがだーい好きだぞう」

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 ぼくは優しくないです
 苦しそうな先生の顔を、自分から見えないようにしただけなんです
 
 ぼくはハグをされると嬉しくなって顔がほころんでしまうから
 先生も同じようにならないかなって思ったんです
 
 お願いです
 解いた腕の中から笑顔の先生が現れますように

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